東京高等裁判所 昭和59年(く)111号 判決
所論に鑑み関係記録を検討するのに,被告人は,(一)兇器準備集合,傷害致死被告事件,(二)建造物侵入,暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被告事件,(三)有線電気通信法違反,住居侵入,傷害被告事件,(四)銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反被告事件について,各別に勾留されているところ,右(一)は,全国反帝学生評議会連合に所属する被告人が,多数の自派学生らとともに,いわゆる革マル派に所属する者らの身体に対し共同して害を加える目的をもって,多数の鉄パイプ等を所持して集合した事案と,ほか10数名の学生らと共謀の上,いわゆる革マル派に属する2名の者に対し,こもごも鉄パイプでその身体を多数回にわたり殴打する等の暴行を加えて,右両名を死亡するに至らせた事案,右(二)は,被告人が幹部として所属する革命的労働者協会(以下,革労協という。)内部の反対派の文書宣伝活動を阻止するため,横山賢ほか数名と共謀の上,右反対派が利用している印刷所の印刷機等を損壊する目的をもって右印刷所に侵入したうえ,同所において,右横山ほか1名が印刷機2台のインクローラー部分等に生セメントを塗りつけたり,写植機1台のレンズ部分等に接着剤を塗りつけるなどして,それらの使用を不能ならしめ,もって数人共同して器物を損壊した事案,右(三)は,前記反対派の幹部伊東恒夫に対し暴力的制裁を加えるために敢行された一連の犯行であって,ほか10名位の者と共謀の上,まず,警察への通報を防ぐため,右伊東の居住するアパート周辺の架空電話ケーブルなどの電話線合計15本及び公衆電話の受話器コード3本を切断して損壊し,付近一帯の有線電気通信を不能にして妨害し,次いで,右伊東に傷害を負わせる目的で,同人居住にかかるアパートの居室に乱入したうえ,同人の身体を鉄パイプ等で多数回にわたり殴打するなどして同人に全治約3か月を要する傷害を負わせた事案,右(四)は,いわゆる革マル派や革労協内部の反対派に属する者からの襲撃に備えて,改造けん銃1丁及びけん銃用実包4発を所持した事案としていずれも審理中であるが,右(一)の被告事件のうち,傷害致死罪の法定刑は,短期2年以上の有期懲役であるから,権利保釈の除外事由である刑訴法89条1号に該当することが明らかである。
また,原審における審理状況をみるに,右各被告事件は未だ検察官の立証段階にあり,殊に,右(三)の被告事件については,元革労協構成員共犯者梅本秀治の証人尋問が未了であること,右(二)及び(三)の被告事件の共犯者横山賢は,裁判所の説得にもかかわらず,宣誓を拒否し,そのため,同人の証人尋問は不能となったこと,右(一)ないし(三)の各被告事件の共犯者多数は現に逃走中であることなどが認められるところ,被告人は全被告事件につき捜査段階において黙秘し,公判段階においても徹底的に争っている状況にあり,これと本件各被告事件の前記のような態様,被告人が右各事件において果した役割及び同人の革労協幹部としての地位等を勘案すると,被告人を現段階において釈放すれば,右横山賢や逃走中の共犯者ら,更には,被告人側の今後の立証ないし主張如何によっては,検察官側において証人申請の必要に迫られる可能性のある革労協関係の者らに対し,被告人は,その影響力を行使し,あるいは右の者らと相談するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる。
従って,検察官のその余の所論につき検討するまでもなく,被告人に対しては,権利保釈は許されないし,本件事案の内容その他関係記録に顕われた諸般の事情を考え合わせると,裁量により保釈するのが適当であるとは認められず,また,被告人の勾留が不当に長くなったものとも認められない。